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獄(ひとや)を打ち砕きて〜the Xmas story
"Bazet" |
「……何か、人がすげー多いな」 「まあ、クリスマスだしな」 バゼットの外出に付き添う形で現界しているランサー。当然のことながら、着用しているのは魔力装甲ではなくて、普通の洋服だったりする。 「もっとも、宗教観念が希薄な国だ。ちょっとしたお祭りのようなものになっているようだが」 「……そうらしいな」 キリスト教の神の子が人間として生まれた、その祝いの祭り。宗教の教義を無視して祭りそのものを楽しむ国民性は、海に囲まれたこの国くらいにしか育たない。 「こうやって、少し外の空気を吸うのもたまにはいい……早く聖杯戦争に突入したいお前には不本意かもしれないけれどな」 含むところがあるようなないような、微妙な口調で話し掛けてくるバゼットに、 「いや? これはこれで嫌いじゃねえよ、多分」 警戒の網を張り巡らせていながらも、周囲を物珍しげに眺めつつ、ランサーは答える。 「そうか? ならいいが……私はいささか疲れた。久しぶりに人ごみにまぎれたことだしな」 「気晴らしに出て疲れたのかよ…ったく」 そう言いつつも、主を守るように彼女の半歩ほど後ろを歩いていたランサーはバゼットの左手を取ると、先導するようにして先に歩み始めた。 「ランサー?」 「そこ、空いてっから。少し休んでいこうぜ」 それが令呪のある左手でだったことは、意識してのことだったのか。 「これでいいか?」 「ああ…悪い」 ランサーは空いていたベンチにバゼットを座らせると、近くの自販機で飲み物を買ってくる。主に対してマメなのはサーヴァントの特権だが、ここまでマメなのもいっそすがすがしい。 「……ふう………」 飲み物を一口含んで、どうやら落ち着いたらしいバゼットが、物思いに耽るような表情をして大きな息を一つつく。 「なんだよ? 自分の体力のなさに頭痛くなったのか?」 皮肉めいたランサーの口調を聞き流したバゼットは、 「いや。初恋を思い出していた」 と、平然と言ってのける。思わず「ぶっ」と吹き出すランサー。 「は、初恋?」 「…そうだ。幼い時の、一目ぼれの初恋でな…クリスマス休みの直前だった」 爆弾発言に驚きつつも、素直にランサーはツッコミを入れようとした。 「ってコトは、30年ま……ぐっ……」 え、と言おうとしたのだろうが、言い終えることができなかった。何しろ、バゼットの肘がランサーの鳩尾にクリーンヒットしていたのだから。 「………う……ぐっ……」 「私はまだ20代だ」 冷徹に訂正を求めるバゼット。格闘術もこなすバゼットの肘打ちはランサーの身体にしかるべきダメージを与えていた。魔力の装甲もまとっていないのだから尚更である。 「て、てめ……」 「口は災いの元、だぞ。ランサー」 平然として、バゼットはもう一口、と缶を口元に運ぶ。 「何、郵便局にあった神の子の像があまりに美しかったので、その場から動けなくなっただけのことだ……もっとも用事を言い付かっていたので、帰りが遅くなってしまって叱られたがな」 「へー……」 「そういうのを初恋、というのだろうよ。あそこまで心を奪われたのは最初で最後の経験だった」 「あー……そーかよ」 適当な相槌を打つランサーに気づいたのか、きょとんとした目でランサーを見つめるバゼット。 「ご機嫌斜めだな…? そんなに痛かったか?」 自分の肘がマトモに入ったランサーの脇腹に視線を移しつつ、淡々としたいつもの口調のバゼットに、ランサーは、 「別に、痛かねーよ」 と拗ねたようにして席を立つ。 「缶、よこせ」 「あ? ああ」 慌てて最後に残っていた一口を飲み干すと、バゼットは空き缶をランサーに手渡す。 「悪いな」 「……別に」 ぷい、とそっぽを向くようにしてゴミ箱に向かうランサー。そんなランサーの後姿を見ながら、バゼットは苦笑を漏らしつつ呟いた。 「あいつは、自分に嫉妬してどうする気だ……?」 少女時代にバゼットが心を奪われたもの。 それは、アイルランドの郵便局にあった、「光の神の子」の死を描いた像だった。 ・END・ これもまた我ながら以下略。甘やか(ぷっ)なランバゼを目指してみましたが、如何なものでしょうか? 相方の紅嬢に「超萌え!!」と言わしめたのが一番嬉しかった☆ 死に行くクーフーリンの銅像は、アイルランドはダブリンの中央郵便局にあります。図書館にあるようなケルト神話の本には写真が載っていることが多いので、一度ご覧になってみて下さい〜。 |